世界三大伝統医学とは?概要や原典を紹介します。

 

世界三大伝統医学とは、中医学(中国伝統医学)、アーユルヴェーダ(インド伝統医学)、ユナニ医学(アラビア世界・イスラム圏の伝統医学)の3つを指します。

それぞれが独自の人間観、世界観を持っており、その生命観に基づいて自然治癒力の発揮を促していきます。どれも科学的手法などない時代に開発された医療体系です。

 

現代の科学的な検証で、有効性が認められた内容もあれば、否定されている内容もありますが、一方で、科学的な説明がつかないのに実際に有効だという内容もたくさんあります。

有用性があるからこそ現代まで伝えられ、研究対象となり、実践もされているわけですね。

 

このような高度な知恵が遥か昔に生まれていたこと、そしてそれがバトンのように、現代まで伝えられてきたというのはとても神秘的というか、すごいことだなと思います。

そんな伝統医学の興味深い世界を、サラッと紹介したいと思います。

 

中医学(中国伝統医学)

概要

日本人に馴染み深いのは鍼灸治療、漢方、陰陽五行論、五臓六腑、気、経脈(ツボの話)などです。意味はよく分からなくても、聞いたことのある言葉は多いと思います。

気の滞っている箇所の気の巡りを良くする、陰陽のバランスを整えるなどによって自然治癒力の発揮を促していきます。

原典①『黄帝内経』

「こうていだいけい」と読みます。有名な栄養剤「ユ●ケル黄帝」の名前の由来にもなっています。

内容は大まかに『素問編』と『霊枢編』に分かれ、中医学の代表的な概念(陰陽論、経路など)の考え方や、鍼灸の手法などが書かれています。

原典②『神農本草経』

「しんのうほんぞうきょう」と読みます。中医学における薬辞典です。

365種類の植物、動物、鉱物が薬として収録されており、薬効の違いによって下薬、中薬、上薬の3つに分類されています。(下品、中品、上品とも呼ぶ)

上薬は無毒で、長期に服用しても害がなく長寿のために使えるとされ、下薬は毒が多いので長期の服用には向かない、中薬はその間のような位置づけです。

原典③『傷寒雑病論』

一般的には、現存する『傷寒論』および『金匱要略』(きんきようりゃく)を指します。(諸説あります)

病気を独自に分類し、その判別法・治療法を論じた書物です。

 

アーユルヴェーダ(インド伝統医学)

概要

アーユルヴェーダとは、サンスクリット語のアーユス(「生命」)とヴェーダ(「知識」)を組み合わせた「生命科学」という意味の、インド・スリランカ発祥の伝統医療です。5千年くらいの歴史があるとされています。

概要を本当にザックリ言うと、生命は3つの要素「ヴァータ(風と空の性質)」、「ピッタ(水と火の性質)」「カパ(水と地の性質)」というエネルギーで成り立っていて、それらのバランスが崩れると病気になるから整えていこうね、というものです。

これでは全くもって説明不足なので、そのうち解説用のページを別で作ります。

 

原典①『チャラカ・サンヒター』

内科的治療法に関して記述されている本で、矢野道雄さんが日本語訳を出版しています。
朝日出版社科学の名著 第Ⅱ期 1 インド医学概論 : チャラカ・サンヒター


また、日本アーユルヴェーダ学会も日本語訳を出版しています。
(翻訳途中のようで、数ある篇のうち総論編のみ出版されています。現在の翻訳の進み具合は調べてみて下さい。)
(せせらぎ出版チャラカ本集 総論篇 インド伝承医学

 

原典②『スシュルタ・サンヒター』

北西インドを中心とする、アートレーヤ学派の医学がまとめられています。

アーユルヴェーダの内容としては、主に外科的な治療法に関して記述されている本です。

①総論、②病理学、③解剖学、④治療法、⑤毒物論、⑥補足編で構成されます。

大地原誠玄さんが日本語訳を出版していますが、非常に高価で流通数も少ないです。(たにぐち書店『スシュルタ本集』全2巻)
(日本語版は全3巻ありますが、第3巻は日本人が読みやすくするための索引なので、内容的には2巻までです)

原典③『アシュタンガ・フリダヤ・サンヒター』

ヴァーガバーダという人物が、原典①と②から重要な部分を抜き出してまとめた本です。

今のところ日本語版は無いようです。今後出版される可能性もありますから、されていたらどなたか教えてください。(笑)

 

現実的に読みやすい本

アーユルヴェーダの原典は非常に高価で、内容の解釈にも様々な説があり、整合性が取れない部分もあります。研究者になるのでなければ、原典で勉強するのは現実的ではありません。

そこで個人的にオススメなのが、新版 インドの生命科学 アーユルヴェーダ』です。アーユルヴェーダの全体像と養生法が分かりやすく書かれています。

 

ユナニ医学

概要

そもそもユナニ医学なんて聞いたことないよ、という方も多いのではないでしょうか。

中医学なら鍼灸治療や漢方薬、アーユルヴェーダならヨガのイメージを持たれていることが多いですが、ユナニ医学は日本では影の薄い分野ですよね。
(※実はアーユルヴェーダとヨガは別物です。)

ユナニ医学は内容も割とアヤシイ感じがしますが(笑)、世界ではユナニ医学が実践されている地域も案外あって、少なくとも医学史的には重要な立ち位置にある分野です。

 

ユナニ医学では、人体を自然哲学の流れの中で捉えていて、物質の性質を「」の4元素に分けて捉え論じています。一見「なんじゃそりゃ?」となりますが、カードゲームなどにおける「属性」という言葉でイメージが湧くと思います。意外と我々にも馴染みのある考え方です。

原典『医学典範』

イブン・シーナー(ラテン名:アヴィセンナ)という人物が『医学典範』という書物を残していますが、日本語のテキストはほぼ無く、医学史の本で見かけることの方が多いです。「医学や科学が未発達な時代の医学」みたいな立ち位置で書かれています。

英語版だとユナニ医学の本も多く出ていて、『医学典範』は『The Cannon of Medicine』という名前で出版されています。

 

ユナニ医学は非常に分かりにくいので、こちらでザックリ解説しました。

世界三大伝統医学の1つ、ユナニ医学とは?その特徴と、学ぶための本を紹介します。

 

 

以上、世界三大伝統医学の概要でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。