世界三大伝統医学の1つ、ユナニ医学とは?その特徴と、学ぶための本を紹介します。

 

ユナニ医学とは、イブン・シーナーの著作『医学典範』を主な原典とする医学の体系を指します。

主にアラビア語圏・イスラム圏で発展しながらヨーロッパにも広まり、ヨーロッパでは19世紀まで、医学のスタンダードという立ち位置を占めていました。

 

僕が初めてユナニ医学を知った時は、「科学が未発達だった時代の、人類の勘違いじゃないか?」という印象でしたし、医学の歴史の中でも「医学が進歩する途中の形態」として扱われています。

医学史的には重要なものだけれども、現代人が取り組むべき養生法・治療法かというと「?」です。

 

ユナニ医学は元々アラビア語やギリシャ語やペルシャ語で記述されていて、それを無理やり日本語に当てはめて翻訳したため、用語が分かりにくいことが特徴です。

ちょっと長いですが、良かったら読んでみて下さい。

 

 

天才医師イブン・シーナと『医学典範』

イブン・シーナーが試みた「医学の体系化」

イブン・シーナー(ラテン名:avicenna、アビセンナ、アヴィケンナ)は、中央アジア生まれの医師です。

彼が生きた時代は980年~1037年、医学や科学が今よりも未発達であった中世であり、当時は病気の原因などがあまりよく分かっていませんでした。

そこで彼は、その背後にある原理原則を見出そうと研究します。

 

全5巻の書物『医学典範』

彼は生涯で250点以上の書物を執筆していますが、その中でも最高傑作とされているのが『医学典範』です。(英訳名:The canon of medicine)

四元素、四体液、気質などの原理に従って、疫病やその診断、治療、薬の調合、外科、産科などを理解出来るように説明しました。

 

もちろん、現代の科学に照らし合わせるとおかしな部分もたくさんありますが…。

「物事を理解するための考え方として、当時としては画期的なものだった」ということです。

 

ユナニ医学の世界観

ここではユナニ医学の特徴を掴むために、重要と思われるものを挙げます。

理解するうえで大切なのは、そもそも科学的に正しいかどうかを重視するものではないということです。そうではなく、科学的手法を持たない当時の人々が「こう考えれば色々な物事を説明出来たり、上手く対処できるっぽいぞ」ということで経験則的に発見・伝承された考え方です。

当然、現代科学の方が「物事を客観的に、確実に説明する」という面で優れています。

四大元素

この世界の物質は、「火、風(空気)、水、土」の4つの元素で構成されているとする概念のことです。(アリストテレスに始まる説)

僕はこれを初めて読んだ時、「明らかに間違いじゃないか。どうしてこんな教えが現代まで残っているんだ?」と思いました。笑

 

ここで大切なのは、四大元素における「元素」は、「現代の化学における元素」とは意味が違うということです。

現代で言われる「元素」は、水素や酸素や鉄などの「ある物質を構成する最小単位(原子)の名前」という意味ですよね。

一方で四大元素の「元素」とは、「物質の状態であり、様相であり、それぞれの物質を支える基盤のようなもの」です。具体的な物質としての「火」とか「風」とか「水」とか「土」を指しているのではありません。

 

分かりにくいと思うので、ここでは「全ての物質には、火、風、水、土のいずれかの属性がついている」と思ってください。ゲームのアイテムみたいなものです。笑
(複数種類の属性がついている場合もあるし、同じ物質でも属性が変わることもある)

ちなみに属性間の相性もあります。

実際にそんな「属性」とやらが存在するかどうかは、当然確認のしようがないけれど、「そういう前提で考えてみると、人体の色々な現象をうまく説明出来る」ということです。

熱・冷・湿・乾の4性質も付属

4元素には、それぞれ熱・冷のどちらか1つと、湿・乾のどちらか1つ計2つの性質が付属しています。

 

火の元素には、熱と乾の性質がついています。体を温め、乾燥させます。

風の元素には、熱と湿の性質がついています。体を温め、水分を保ちます。

水の元素には、冷と湿の性質がついています。体を冷やし、水分を保ちます。

土の元素には、冷と乾の性質がついています。体を冷やし、乾燥させます。

 

これらの理論はハーブ、エッセンシャルオイルなどのセラピーや、占星術などの基礎にもなっているようですが、また別の機会に書きます。

 

ガレノスの「四体液説」

四体液説とは、人間の体液には①血液、②粘液、③黄胆汁、④黒胆汁の4種類がある、という説です。

また、「それら四体液の調和によって身体と精神の健康が保たれ、バランスが崩れると病気になる」とする考え方を「体液病理説」と呼びます。

 

この四体液も、我々が想像しているものとは違います。

我々が想像するのは「具体的な物質」ですよね。
血液とは体内を巡る赤い液体。粘液は鼻水や唾液など。胆汁とは、(黄と黒というのはよく分からないけれど)肝臓の分泌物です。

そして、「体内にはこれら4つ以外にも、もっと色々な種類の体液があるじゃないか」と感じるのが現代の感覚です。

 

しかし四体液説における体液は、そういう具体的な液体名を指すものではなく、「体内を流れる全ての体液を、これら4つのどれかに分類することで人体を説明していく」という考え方のようです。

 

では具体的な分類はというと…不明です。(笑)

一応、意味不明なりに説明を書いておきます。

・血液…体内の熱が丁度良い状態で、食べ物が完全に消化された時に生成され、生命維持にとって重要な良い体液。(血だけを指すわけではないらしい…。)

・粘液…炎症(冬に起こる)の産物として生じる体液。体に良くない。(色のついた鼻水はウイルスの死骸だと言われますが、そういうこと?)

・胆汁…体内の熱の過剰によって生じる体液で、体に良くない。黄胆汁は軽くて熱い。黒胆汁には酸味があり、体を腐食させる。(実際に飲んだのか?笑)

 

ちょっとよく分かりませんね。現在では四体液説・体液病理説はほぼ使われていないので、そういうものだと流してください(笑)

ユナニ医学の医師は、理論よりも経験を重視する

ユナニ医学の世界は、本当なのかよく分からない概念ばかりでした。

しかしイブン・シーナーは、理論よりも医師自身による観察と実践を重視しました。元素、性質、体液など理論は色々ありますが、その理論を検証することに意味はないとしたのです。現代の学者がこんなこと言ったら大バッシングですね。理屈抜きで受け入れろと。(笑)

 

まあ確かに「この物質は本当に火属性か?」なんて検証のしようがないわけですから、「この理論が実際に役立つかどうか」のみによって有用性を測るしかありません。

理論はともかく、この考え方で治療をすると実際に上手くいくから実践してみてね、ということなのでしょう。怖いですけどね。

現代のユナニ医学

現代でも用いられている地域はあるのか?

ここまで見てきたように、ちょっと非科学的で、現代とは全く異なる発想の人間観ですね。

考え方自体が分かりにくいし、日本では馴染みのないユナニ医学ですが、世界を見ると実践されている地域は多いようです。

 

現代でユナニ医学が実践されている国は、インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、ネパール、中国、イラン、イラク、マレーシア、インドネシア、中央アジア、中東諸国と意外と多いです。
特にインド、パキスタン、エジプトで盛んなようです。

自然療法・伝統医学が盛んなインドでは、ユナニ医学は4番目に活用されている療法だそうで、ユナニ医学を学ぶ専門の大学もあります。
(インドで活用されている療法第1位は西洋医学、2位はアーユルヴェーダ、3位がホメオパシー)

これは、インドのAYUSH省(伝統医学を研究・推奨する国家公認の機関)の公式サイトに書いてあります。

 

具体的な手法

個人の細かい違いを考慮して、その人が自然治癒力を高められるように進めていくのが特徴です。習慣、季節、居住地域、職業、性別、体力、体格など多くの項目を考慮します。

 

・診断…体の状態だけでなく、言動や生活環境が細かく観察され触診も行われる。また四体液の状態を知るために、尿検査、便検査、血液検査、脈診などを行う。

・衛生…生活習慣に関する指導のこと。(ここでの衛生は「清潔さ」等の意味ではありません)

・栄養…食事指導。摂るべきものだけでなく、禁止や量の調整もある。

・生薬…病気の質と反対の質の薬が処方される。(この「質」というのは恐らく四大元素(属性)のことです。火には水を、ということですね。)

・身体摩擦法…いわゆる手技療法のことで、現代でいうマッサージや整骨のことです。

・瀉血(しゃけつ)…血液を抜く治療法です。「病気の体の血液には毒が含まれているから、血液を積極的に外に出すことで健康を取り戻せる」という考えです。
(※瀉血の有効性については甚だ疑問視されており、実践されていた当時ですら治療効果はなかったようです。体から血液を抜いたら大変なわけで、現代医学的には有害そのものです。)

 

ユナニ医学を学ぶための本

イブン・シーナー(アヴィセンナ)の原典『医学典範』は全5巻で、そのうちの第1巻(総論編)のみ日本語訳が出ていますが、絶版しており流通していません。

ユナニ医学の概要を紹介する本としては『ユーナニ医学入門』がありますが、これも絶版。

その他には『医学の歌』が出版されていますが、何故か詩の形で書かれていて読みにくそうです。日本語の本が無いと言って良い状況です。

 

一方英語では、ユナニ医学に関する本は多く出版されています。ユナニ医学は英語で「Unani Medicine」といい、Amazonで検索するとたくさん本が出てきます。

『医学典範』は英語で『The canon of medicine』として出版されており、全5巻分が1冊に納められた969ページです。分厚い(笑)

恐らく直訳された文が載っているだけなので、この本単体で読んでも意味が分からないと思います。

 

 

ユナニ医学は中医学、アーユルヴェーダと並んで世界三大伝統医学に数えられながら、その有効性は不明で、情報も少ない分野です。

今回は概要を書きましたが、僕の知識が増え次第また書き足すかもしれません。

最後までお読み頂き、ありがとうざいました。